第2章

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午前の部を勝ち残ったクラスのみが立つことが許されるこの決勝戦のグラウンド。既に負けてしまったクラスは教室にて授業を受けなければいけないということもあって、ここに立っているだけで智にとっては今日のミッションは全てクリアしたようなものだった。 話の流れで元野球少年だということがバレてしまった以上、下手なプレイはできない。かといって自分のような人種がめちゃくちゃ目立ってしまったら、それはそれで変な空気になることは分かっていたので、智は午前の部を腹八分目くらいの力で戦った。ヒットも1本打ち、エラーもしなかった。その結果、良い意味でも悪い意味でも特に目立つことなく午後の部に残ることができた。全てが計画通りだった。 そして、今から始まる2年生ソフトボールの部の決勝戦。当然ここまで来たら勝とうが負けようが智にとってはどちらでもよかった。午前と同様にそこそこのプレイをして目立つことなくその日を終えることが彼の中での一番の目標となっていた。 「午前の試合さ」 試合が始まる少し前、もう少しで試合前のあいさつが行われるという時に、不意にある一人の男が智に声をかける。 グローブを左手にはめ、相も変わらず爽やかな雰囲気を醸し出している彼は、これも相変わらずの優しさのあふれる笑顔を浮かべている。 「松田君、手抜いてただろ?」 しかし、その表情とは裏腹に飛び出た言葉は智の心臓をえぐるのではないかというほどに威力をもったものだった。あまりの衝撃に智は何も言い返すことができない。 「なんでわかったって顔かな?それは」 「いや、別にそういうわけでもないけど」 目を合わせることのできない智に、透は自分のはめているグローブでポンと智の背中を軽く叩いた。
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