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「どう?調子は」
香織のその質問に智はバッターボックスに入る透に視線を送る。
「まあ、見ての通りだよ。やっぱり何でもできるね一ノ瀬君は」
香織が首を傾ける。
「いや、そっちじゃなくて。松田君のほうだよ」
「僕?」
まさか自分の事が話題の中心になっているとは思わず、智は少し驚きつつ勢いをつけながら振りむいた。
香織は手に持っていたスマートフォンをこちらに向け白い歯を見せた。
「松田君野球やってたんでしょ?活躍してるとこ動画にとって、後で理沙に見せてあげようと思って」
「いや、一ノ瀬君を撮ったらいいじゃないか」
「透が活躍するのなんていつものことだもん。ハッキリ言ってもう見飽きたんだよね。それよりも松田君が目立つ瞬間なんてめちゃくちゃレアじゃん」
満面の笑みを浮かべながら、無意識に失礼なことを口にする香織だが、そのあまりにも無邪気な笑顔に智は何も言えずにいた。
「ま、がんばってね」
香織が軽く智の肩をポンと叩き、女子達のいる場所に戻って行く。
そのあまりに急な距離の詰め方に智は唖然としながら彼女が去っていく背中を見送る。
そんな時、ふとその視線の先にいる麻美の姿が目に入る。はしゃぎながら透の打席を見守っている周りの女子達とは一線を画すように、彼女は何とも冷静な面持ちで戦況を見守っていた。
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