第2章

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そこには、先ほどと変わらずずっとこちらをまっすぐ見据える麻美の姿があった。怒りでもなくもちろん期待でもない、そこにある感情を智は読み取ることができなかった。 (一生懸命やんなさい!) その一言は、智がもう一度打席に入ってから聞こえてきた。 彼女が一体何を怒っているのか、そもそも怒っているのかさえ彼にはよくわからない。 しかし、この時の智の心の中では先ほどまでにはなかったある感情が間違いなく芽生え始めていた。 一生懸命やりなさい。 そんな言葉を智は今まで親にさえ投げかけれらたことはなかった。基本的には智は真面目だし、人からも親からも教師からもそう言われてきた。 何事も一生懸命やっているつもりだった。 それと相反することを、今日1日で2度も指摘された。 その事実は、智にとってなかなかに大きな出来事だった。 打席に入り智はバットを構える。 相手のマウンド上には名前も知らない男子がいて、ソフトボール独特の投球動作に入る。 そして、ピッチャーからボールが手放されたとき。 智の脳は今までに一度も経験したことがないほどの集中力を発揮していた。
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