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――気がつくと、智の目の前にはあまり記憶にないような天井が広がっていた。
「大丈夫ですか?」
ふと、そんな声が頭上から聞こえてきたことで、智は今自分がどこにいるのか、どんな状況にあるのかを思い出した。
しかし、ツンと鼻をつく消毒液の香りの奥に見える一人の人物を認めた時、智は少しドッキリした。
「あ、まだ起きないほうがいいですよ。頭に当たったんですから」
おっとりした顔つきの奥に、心配そうな表情を浮かべて智を手で制したのは、昨年度保健委員として一緒に活動していた麻由子だった。
ズキズキと痛む頭で智はさっきまでの出来事を思い出す。
――あのとき、智は相手ピッチャーが投げた勢いのあるボールに思いっきり踏み込んだ。
その分、相手の手が滑って自分の頭に向かって飛んでくるボールを彼は避けきることができなかった。
智の頭部にボールが鈍い音を立てて当たった時、どこかふんわりとしていたその場の空気が一瞬で凍りついた。
ボールに勢いがあったとはいえ相手は素人。そこで智が気を失ったとかそういうことはなかった。しかし、すぐさま彼のもとに走りこんできた透により智は保健室へと運び込まれることになった。
ただただその場の流れに流されるままに保健室へと向かう道中、心配した伸二と元保健委員であり、相手クラスの応援をしていた麻由子も一緒についてきてくれた。
そのとき、ふと智は麻美のことが気になった。
透に肩を支えられておぼつかない足取りで歩きながら彼は辺りを見回してみた。すると、麻美がグラウンドにまで出てきて、ひどく心配そうな顔をしているのが見て取れた。
それを見た智はなぜか少しだけ胸をなで下ろしていた。どうして自分がそんなことを思うのかはわからないままでいたが。
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