第2章

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理沙が特に苦手なのは数学のようだった。 どうやら彼女は何に対しても「なぜそうなるのか」と考える癖があるらしく、単純に公式を教えても納得できない節があった。学者とか研究者にはきっと大事な感性なのだろうけれど、逆に学校教育には適していないのだろうなと智はわかったような風に考えていた。 放課後の旧視聴覚教材室。梅雨も落ち着きを見せ、もうすぐ夏休みということで学生もどこか浮かれ気分になるこの時期。智と理沙は部屋に閉じこもって勉強をしている。智にとって今までに味わったことのない感覚だが、理沙にとってはもうそこに控えている期末テストを乗り越えなくては夏休みも何もないのだ。 特に中間テストで赤点をとってしまった数学に関しては、なかなかに絶望的な状況だった。智も手を替え品を替えながら教えているのだが、なかなか定着しない。 「xが1のとき、xの2乗も1…。でも、その逆は成り立たないじゃないですか。どうしてわざわざそんなことを問題にする必要があるんですか?」 智は理沙のひとつひとつの質問になんとか答えようと頭を回転させる。 「その命題の真偽を問う問題とはまた別の問題なんだよ。合っているか間違っているかは別として、その命題の逆を問われたらそう答えるしかないんだよな」 「わざわざ間違ってるとわかってることを答えるということですか?」
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