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「えっと…やっぱり頭のことなんで心配ですし…。病院にも行ってないって聞いたから余計に」
しかし、その口ぶりからは本気で自分を心配してくれているということが伝わってくる。
智はすぐにちょっとした罪悪感にかられ、自分の頭をポリポリと掻いた。
「大丈夫だよ。余計な心配させて悪かったね」
その言葉に理沙は首を横に振り、ニコッと笑って見せた。
不意にいつか伸二が彼女のことを可愛いと形容していたことを思い出す。なんとなくドキッとしてしまったのはやはり智にこういった男女の機微に関する経験が少ないからと言えるだろう。
「それじゃあ、私はここで」
ある歩道橋のふもとで、理沙はそう言った。お辞儀をして歩道橋を登っていく。
階段を上る途中で彼女が振り返る。そして「また明日もよろしくお願いします」と言って深くお辞儀をした。
これほどまでに腰の低い人物が、あの香織の従姉妹であるという事実を少し信じがたいという気持ちと、こんな健気な彼女に対して自分は十分なことをしてやれているのかという少しの不安感を智はこの時抱いていた。
下からスカートの中身が見えてしまっても申し訳ないので、智は理沙が見えなくなる前に自分の帰り道を再び歩き始めた。
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