序章 出会い

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それを知りたい? …知りたくない? 気持ちの整理がつかず、目をそらす。 「難しく考えなくていいんじゃないかしら…」 女性が目の前にコーヒーカップを差し出し 一つ深く息をついた。 何かを覚悟したように… 「すぐに返答出来ないって言うことは、迷いがあるってことよ。貴女の中に、否定し切れない何かがあるのね」 切れ長の瞳を細めて見つめてきた。 「覚えのない記憶の中に、誰かがいるんでしょう?違う??」 怖い、と思った。 見透かされたからだけじゃない。 女性から向けられる視線には確かな敵視があった。 「…どうでも、いいのでは?」 重苦しい沈黙を破ったのは少年の声。 「前世がどうとかこうとか、今を生きていれば関係ないですよ」 「だけど、要!」 「関係ないんですよ」 声を荒げた女性に少年が言い放つ。 「祥吾さんも満琉さんも、前世にこだわり過ぎる」 「…こだわり過ぎるねぇ」 煙草をくわえながら男が呟いた。 「お前が一番こだわってんじゃねぇの?」 場が凍りつく音がした。 この状況、打開するには多分… 「私はっ…」 思っていることを言わないといけないのだ。 「正直、前世なんてわかりません。考えても、わからなかったんです…」 女性は、満琉さんは見抜いてる。 「ただ、貴女が言ったように私の中には誰かがいて、呼ばれてる気がするんです」 だから女性に向かって伝える。 「それが前世に関係していたとしても、今を生きる私のものですよね?それなら、現世も前世も関係ないのかな、って」 素直な気持ちを伝えないといけないって思ったから。 「私は、私だから」 今わかった。 知りたいとか、知りたくないとか、そういうことではなく、知らなきゃいけないんだ。 「私、日向 葵といいます。これからよろしくお願いします!」
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