第1章 夢と恋情

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第1章 夢と恋情

【 図書館 】 よろしくお願いします。って 一体何をお願いしたんだろうか… (我ながら、恥ずかしい) 返却されてきた本を抱きしめて 本棚の間を移動する。 図書館に勤めて6年 今回の事故で初めて仕事を休んだ。 職場の同僚はまだ休んだほうがいいと言うけど、家に一人でいるとアレコレ考え過ぎて頭が痛くなる。 満琉と言う女性が帰り際にかけてくれた「また来てね」は「もう来ないでね」に聞こえた。 祥吾と言う男は、煙草の煙を吐き出すだけで何も言わなかった。 少年は当たり前みたいに家まで送ってくれた。 聞きたいことがあるはずなのに口にはできず、お互いの年齢とか仕事とか学校の話をして… (18才…やっぱり高校生だし) 何だろうか…とんでもない背徳感がズシリと肩に乗りかかる。 (そこにショックを受ける私って) 本棚の前でたたずみ、その声を、瞳を思い出す。 思い出すとドキドキする。 「葵さん」 突然背後からその声で名前を呼ばれた。 息が止まるほど驚いて、抱えていた本をバラバラと落としてしまった。 振り向くと、少年が立っていた。 「要くん?!」 「大丈夫ですか?」 おろおろとする葵の足元にしゃがみ、要は本を拾い集める。 「私、大丈夫?って聞かれてばかりだね」 葵もしゃがみ、本を拾う。 「…そう言えば、そうですね」 くすりと小さく笑い要が手を止め、葵を見やる。 「どうにも危うくて」 目が合うと、怖くなる。 怖いのに、そらせないし、ドキドキする。 遥か昔に忘れ去っていた胸の高まりに、うまく対処できない。 「お手をわずらわせて、すみません…」 ギブアップと言わんばかりに目をそらす。 10才も年下の高校生を意識するなんて、もうどうかしてる。 「この本、棚に戻すんですか?」 要が言いながら、本を戻し始めた。 「あ、ありがとう」 手伝って貰うなんてどうよ、と思いながらも、そう返すのが精一杯。 それに断ったら帰ってしまうかもと、思った。 帰って欲しくない。
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