第1章 夢と恋情

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本棚と本棚の隙間に二人はいた。 (だから、この血は…) 顔を上げてぞっとした。 要のこめかみから血が一筋流れていた。 「要くんっ…」 ぽとり、ぽとり、と床に落ちる。 葵は思わず要の側頭部に手を当てる。 (どうしよう…どうにかしないと) 血を止めないと!傷口をふさがないと! ただただ必死に手を当てた。 手のひらが熱い。 焼けそうなほど熱くて、重い… 要がハッとして頭を引いた。 「かなん…」 小さく息を吐くように要が呟く。 驚いて見開いた吸い込まれるような黒い瞳。 思い出した… 何度も何度も呼ばれていた。 その声で、その唇で。 「……​…​架南(かなん)」 知らない誰かが呼んでいる。 残像のように揺らぐ記憶の片隅 いつも、いつも自分を呼ぶ声。 愛しい声… 「……​…​蒼麻(そうま)?」 葵が名前を呼んだ瞬間、再び本棚が傾き、とっさに要が右腕で支える。 「葵さん、隙間から出れますか?」 要が横を見やり、促す。 「とにかく、出ましょう」 落ち着いた声に促され、頷く。 床に散らばる本の上を這いつくばり、本棚の隙間から出た。 「大丈夫?!」 同僚が青ざめながら迎えてくれる。 振り返ると、本棚の隙間に要がいない。 「要くん?!」 慌てて周囲を見渡す。 だが探しても探しても要の姿はなかった。
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