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本棚と本棚の隙間に二人はいた。
(だから、この血は…)
顔を上げてぞっとした。
要のこめかみから血が一筋流れていた。
「要くんっ…」
ぽとり、ぽとり、と床に落ちる。
葵は思わず要の側頭部に手を当てる。
(どうしよう…どうにかしないと)
血を止めないと!傷口をふさがないと!
ただただ必死に手を当てた。
手のひらが熱い。
焼けそうなほど熱くて、重い…
要がハッとして頭を引いた。
「かなん…」
小さく息を吐くように要が呟く。
驚いて見開いた吸い込まれるような黒い瞳。
思い出した…
何度も何度も呼ばれていた。
その声で、その唇で。
「………架南」
知らない誰かが呼んでいる。
残像のように揺らぐ記憶の片隅
いつも、いつも自分を呼ぶ声。
愛しい声…
「………蒼麻?」
葵が名前を呼んだ瞬間、再び本棚が傾き、とっさに要が右腕で支える。
「葵さん、隙間から出れますか?」
要が横を見やり、促す。
「とにかく、出ましょう」
落ち着いた声に促され、頷く。
床に散らばる本の上を這いつくばり、本棚の隙間から出た。
「大丈夫?!」
同僚が青ざめながら迎えてくれる。
振り返ると、本棚の隙間に要がいない。
「要くん?!」
慌てて周囲を見渡す。
だが探しても探しても要の姿はなかった。
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