第1章 夢と恋情

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【 夢 】 桜の花びらが風に吹かれ舞い上がる。 いつもの場所、桜の木の下 黒髪が風になびかせ、空を見上げる姿。 いつから特別になったのか、わからない。 だけど気づいた時には遅かった。 名前を呼ぶとこちらを見る、その瞳 他の誰も見ないで欲しい。 (私だけを見て…) 密かに膨らむ切望。 「架南、あとわずかで雨が降る」 染み入る雨のような静かな声 「戻ろうか…」 雨が落ちて頬を伝う。 雫たちが景色を濡らしていく。 まるで心の中のよう… 今日は婚礼の日取りが決まった日。 もう引き返せない。 どこにも行かないで… (…行かないで!) 一瞬にして景色が変わった。 見慣れた天井、聞き慣れたアラーム音に我に帰る。 (夢だったんだ…) 葵は汗で濡れた額を枕に押し当てる。 今日で3日目、同じ夢ばかり見る。 図書館で要は見つからず、喫茶「陽だまり」は開いてなかった。 昨日も店は開かず終いで、要がどうしているのかわからない。 怪我の具合はどうなのか… あの時、確かに「かなん」と呼ばれた。 呼ばれて初めて「蒼麻」と言う名が浮かんだ。 やっと何かがわかった気がしたけど わからなくなってきた。 知らない誰かが要で、要が蒼麻と言う人? 蒼麻が要の前世? 生まれ変わっても姿は変わらないのだろうか?? 夢は前世なのか… (婚礼って誰の?) きっと祥吾と言う男と満琉と言う女性は何かを知っている。 要の居場所も知っているはず。 図書館は立入検査があり、休館となった。 今日一日休みがある。 (どこに行けば会えるの?) 要のことで知っている情報は少ない。 あと知っていることとしたら…
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