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【 要と祥吾 】
「よぉ、ナイト君」
ボサボサ頭を掻きむしり祥吾が大きな欠伸をしながら声をかける。
「今日も姫の警護かい?」
「それは祥吾さんの役目でしょう…」
部屋の鍵を閉めながら要はそれを一瞥し、吐き捨てる。
「俺は警護じゃなくて、見張り。要くんみたいな抜群の運動神経ないからね」
「煙草と酒と加齢のせいですかね」
「痛いところつくなぁ」
歩き出そうとする要の進路を阻むように立ち、祥吾は煙草に火をつける。
6階建てのビルの3階、人気の無い広い廊下で二人対峙する。
3階ワンフロアに3室あるが要しか住んではいない。
「何か用ですか?」
そこにわざわざ来ているのだから、何かあるのだろう。
差し当たって…
「…葵さんの件ですか?」
眉をしかめる要を斜めに見やり、祥吾は煙を吐きながら口を開いた。
「もう関わらないとか言いながら、気になる訳だ」
「関わらないではなく、接触しないと言ったんです」
「接触ねぇ…」
煙草の煙をわざと吐きかけられて要はムッとする。
「だから、お願いしますよ、警護」
祥吾の横をすり抜けて要は階段へと向かう。
「じゃあ、俺が、俺のやり方で接触しまくってもいいんだな」
そんな要の背中に祥吾は問いかけた。
「俺がちょっと接触しただけで、あんなに嫌がってたのに、いいのかなぁ」
歩みを止め、ゆっくり要は振り返る。
「警護、と言ったんですよ」
瞳を細め、祥吾に冷たい視線を向ける。
「それ以上でも、以下でも無い」
言い放ち、階段を下りる。
駅のホームで遭遇したのは偶然だった。
喫茶陽だまりの前で祥吾に絡まれているのを見て、仕方なく接触した。
図書館へは自分から会いに行った。
確認する必要があると考えたからだった。
だけど、これ以上の接触は危険過ぎる。
だから会わないほうがいい。
図書館での一件があってから3日経つ。
平穏に暮らしていけるなら、それがいい。
(…それでいい)
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