第6章 別れの追憶

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秀でているのは能力の質ではなく、類稀な戦闘における天性の感。 (口惜しい…) 海斗は(ほぞ)を噛む。 初めて顔を合わせた訳ではないが、言葉を交わしたことはない。 海斗に睨まれ、少年は眉をしかめた。 そんな少年と海斗の間に架南が割って入る。 「蒼麻、聞こえてるのか?」 機嫌を損ねた架南の声。 「どこを見て…」 架南が振り返りそうになり、海斗は歩を進める。 「何でもないよ」 柔らかな少年の声色が耳をかすめた。 少年の膝の上にいたのは暁華、あの強襲の日に生まれ、戦いで父親を亡くしている。 総帥の実子は生まれてすぐに乳母と父親の元へ送られるが、父親を亡くした暁華は異例の配慮で母屋に残ったと聞いた。 今はあの少年が片時も離れずにいるのだと、噂には聞いていたが… 総帥の息子、特化した能力、類稀な感性、名声、血を分けた兄妹。 全て持っている少年。 己の能力は一族の存続繁栄の為だけにあるようなもの。 その時が来るまで使う事も許されない。 その時が来るまで… 咳き込んで海斗は目覚める。 もたれるようにどこかに座っている。 気を失っていたらしい。 前世での夢は久しく見ていなかったが… 懐かしい夢を見た。 海斗が16になった春のことだった。 許嫁が決められたと告げられた日。     
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