第6章 別れの追憶

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「兄様か…この前は貴様呼ばわりだったが。どちらにせよ、その姿で言われても実感はないな」 暁華の能力は天使えの者には使えないはずだったが、数百年の月日の中でそんな定義も崩れてきたと言うことか。 結局は、この聖域に移り住む以前、一族を離れた者たちが遺してくれた僅かな血の上にしか、天使えは転生できない。 繰り返される交配の中、血は薄れゆく… 祥吾より、篠宮の血が薄かったのか。 「二人を返して欲しいところだが、すんなりとはいきそうにないな」 要は吐息混じりに腕を組む。 「髪を燃やせ…」 暁華が篠宮の顔で嘲笑う。 「その手で、燃やして貰おう」 「…なるほど」 祥吾にやらせず、待っていた訳はやはりそう言うことか… (やらせようにも祥吾は従えないか) 要は祥吾を見やる。 全く動く気配はない。 その祥吾の背中に、暁華は片足を乗せた。 「恐らく、肋が折れているぞ。こうすれば、折れた肋骨が肺にささるかもな」 ぐっと、押し付けられた祥吾の背中が沈む。 「…あの女に折られた肋骨の痛み、忘れられんよ」 「誤算だっただろう?彼女は予測を裏切るぞ」 「抜け抜けとっ…」 ギリッギリと、暁華の怒りに噛み締めた篠宮の歯が鳴り、足に力が込められた。 これ以上の刺激は祥吾に支障が出そうだ。 髪を燃やすと、現聖域(スローネ)の結界は揺らぐ。     
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