第6章 別れの追憶

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それを見越して襲撃の準備はされているだろう。 元聖域は通常の時間の流れに取り込まれ、社も朽ちていく、そして… 「さぁ、選べ!前世(・・)現世(・・)かっ」 暁華が苛立ちを見せる。 「…わかった。従えば、二人を返すか?」 「とりあえず、そうしよう」 それは嘘だろう。 暁華のことだ、ここで殺したいのだ、全てを。 暁華が何かを放り投げてきた。 それを受け取り、要は社へと踵を返す。 架南が死んだあの時… 自分の中で時間が止まった。 自分に残されたのは、架南の生まれ変わりを待つことだけ。 その思いから転生者の洗い出しから、血筋を探り、血筋を守る為に西園寺を作った。 それでも現れない、出会わない。 もしかすると、それは… ここ(・・)に遺したせいかと考えた時もあった。 そして、待つのをやめた。 要は社の扉に手をかける。 この扉に最後に触れたのは、5年前…もう触れることはないと決めたのだが… (こんな形で再び開けることになるとは) 扉を開き、要は小さく微笑んだ。 「…ただいま、架南」 社の中に横たわる、少女の亡骸。 胸に置いた両手に一房の髪を握り… あの時と寸分違わず変わらぬ姿で。 追憶の中に鮮やかに残る、愛しいその姿。 髪をその身から離せば、朽ち果てる。 「そして、お別れだ」
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