220人が本棚に入れています
本棚に追加
架南の背に数本の矢が刺さっている。
「蒼麻…生きて」
力無い架南の手が背中に回され、架南は胸元に頬を擦り寄せた。
その言葉で、蒼麻は架南が何をしたのか、やっとわかった。
矢を受けながら、治癒を…
感覚が麻痺して痛みを感じないのではない、痛みがなくなっているのだ。
架南が傷を癒した。
怪我を負いながら、自分の余力を全て注ぎ込み、能力を使ったのだ。
人の気配を感じ、顔を上げると少し離れた場所で刀を奮う海斗の背中があった。
殺してやりたいとさえ思った男に、託した。
生き抜いてくれるならと…
逃したつもりでいた。
架南が咳き込んで、蒼麻はハッとする。
吐き出された血が架南の着物を染めた。
矢が肺に届いている。
「…架南、死ぬな」
糸が切れたように崩れる架南の体を蒼麻は支える。
「い、生きて…蒼麻、また、見つけて」
途切れる弱々しい言葉。
初めて出会ったあの日、あの林の中…
しゃがみこんで泣きじゃくる小さな背中。
『一緒に行こう』
差し伸べた手を、震える小さな手が掴んだあの時を思い出す。
「わたしを、見つけて…」
…捨てきれなかった想い。
死を受け入れられず、架南の遺体に珠妃の髪を持たせた。
離かれることなどできなかった。
最初のコメントを投稿しよう!