第7章 陽だまりの天使たち

2/39
前へ
/298ページ
次へ
架南の背に数本の矢が刺さっている。 「蒼麻…生きて」 力無い架南の手が背中に回され、架南は胸元に頬を擦り寄せた。 その言葉で、蒼麻は架南が何をしたのか、やっとわかった。 矢を受けながら、治癒を… 感覚が麻痺して痛みを感じないのではない、痛みがなくなっているのだ。 架南が傷を癒した。 怪我を負いながら、自分の余力を全て注ぎ込み、能力を使ったのだ。 人の気配を感じ、顔を上げると少し離れた場所で刀を奮う海斗の背中があった。 殺してやりたいとさえ思った男に、託した。 生き抜いてくれるならと… 逃したつもりでいた。 架南が咳き込んで、蒼麻はハッとする。 吐き出された血が架南の着物を染めた。 矢が肺に届いている。 「…架南、死ぬな」 糸が切れたように崩れる架南の体を蒼麻は支える。 「い、生きて…蒼麻、また、見つけて」 途切れる弱々しい言葉。 初めて出会ったあの日、あの林の中… しゃがみこんで泣きじゃくる小さな背中。 『一緒に行こう』 差し伸べた手を、震える小さな手が掴んだあの時を思い出す。 「わたしを、見つけて…」 …捨てきれなかった想い。 死を受け入れられず、架南の遺体に珠妃の髪を持たせた。 ()かれることなどできなかった。     
/298ページ

最初のコメントを投稿しよう!

220人が本棚に入れています
本棚に追加