第7章 陽だまりの天使たち

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架南の死を頭では理解して(わかって)はいても、心がついてはいかない。 魂のない亡骸を眺めることに慣れた頃、生き残った村人の中に前世の記憶を持つ子どもが産まれた。 架南が生まれ変わる… 『わたしを、見つけて』 甦る架南の言葉。 期待と絶望が幾度も幾度も繰り返され、諦めた時ですら、亡骸を埋葬することができなかった。 それを今… 要はゆっくり目を開ける。 「見つけたよ、架南」 架南の宿命を背負った命を、見つけた。 生まれ変わりとは、違う人間になること。 架南はもういない(・・・)。 やっと、それがわかった。 要はそっと架南の手を髪と一緒に手に取る。 そして、指先に軽く口付けた。 「…愛していた」 囁いて、架南の手から髪の束を抜き取る。 刹那、土塊が乾いて崩れ去るように、架南の体は指先から順に輪郭を失い塵と化した。 花弁と砂塵が風に舞う。 『蒼麻…』 風の中に架南の声を聞いた。 社も崩れ、要は一歩後退る。 200年もの年月が一瞬にして砂塵となった。 「呆気ないものよ…」 遠く傍観者からそんな声が聞こえる。 確かに呆気ない。 だがきっと、ここからまた始まる。 要は片膝を落とし、砂塵の上に髪を置く。 投げて寄越されたマッチ箱を手に、暁華を一瞥する。 結界の周りにはぐるりと闇人(やみびと)の気配。 『帰ってきてね』     
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