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「和希くん、こうなること知ってたの?祥吾さんと篠宮さんに何が起きるか知ってたって言うこと?」
バツの悪そうな顔をして、和希は黙り込んだ。
「解放を望まなかったのは、その為?」
扉が一層激しく音を立てる。
「…だからさ、あとで説明するって」
扉を気にかけながら和希は、葵の目の前にしゃがむ。
「ここは危ねーから、行こうぜ」
不安げな和希の瞳。
その不安はどこからくるのか…
自分を拐う為に今までここにいて、要を騙し通せてあと一歩で成せるところにいる。
祥吾と篠宮が行方不明になること。
要が元聖域に向かうこと。
ここの結界が消え、襲撃を受けること。
今ある危険は、計算尽くの罠…?
なのに、なぜそんな不安げな目をするのか、葵には分からなかった。
バキバキっと背後で扉を壊される音がして、和希が青ざめた。
「マジやべぇ…」
振り返ると雪崩れ込む人の群れがあった。
その歩き方、一様に焦点のない目、鳴咽…
とっさに和希が葵の体を肩の上へと抱え上げる。
「…やだっ」
がっちり太腿を押さえ込まれ、葵は悲鳴を上げる。
「変なところ触らないで!」
「仕方ねーだろっ」
葵に背中を叩かれながら和希は階段への扉を開ける。
「どうしてこんなことするのよ!」
「あんたを守るんだよ!!」
葵を抱えたまま階段を上がりながら、和希は声を張り上げた。
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