序章 出会い

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「お入りになったらいかが?」 呆然と佇んでいると店の中から声をかけられた。 涼やかな女性の声だ。 「…………あ、はいっ」 足を踏み入れるとカウンターに女性が一人、切れ長の目元が優しく緩み微笑みかけてくれる。 「急に降られて大変でしたね。こちらにどうぞ」 カウンターの席を勧められ席に着くと、スッとタオルを差し出してくれた。 「ありがとうございます」 受け取る時に指先が触れた。 そのとたん、女性が感電したかのように手を引き戻した。 触れた部分を覆うように手で押さえ、怪訝に眉をひそめ、真っ直ぐに睨みつけてくる。 信じられない………… そんな声が聞こえてきそうな口元 驚きを隠せない様子だ。 「なんだそれ、ひでぇ接客だな」 タオルを握りしめて戸惑っていると、背後から男の声がして、勢い良く隣の椅子が引かれた。 ドサリと男が座る。 ボサボサ頭でスウェット姿の男。 まるでこの店のイメージに合わない男である。 「…………あ、あら、ごめんなさい。静電気かしら」 慌てながら女性が耳に髪をかける。 「君さ、いくつ?」 男がスウェットのポケットからぐしゃぐしゃの煙草を取り出し、一本くわえながら尋ねてきた。 一見して常連客か、あるいはこの女性のヒモ?? 怪しすぎる………… 入ってはいけない店に入ってしまったのかもしれない。 「あっ、すみません!用事思い出してしまって…………」 長居は無用、帰ることを決めて椅子を立った時だった。 左手首を掴まれた。 ひどく熱い、大きな手のひらが振りほどけない。 「な、なんですか?!」 とっさに鞄から携帯を取り出し叫ぶ。 「通報しますよ!」 「ちなみにさ」 全く意に介さない様子で男が煙草の煙を吐き出しながら言う 「君、前世って信じる?」
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