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最近、急に痩せ、ひどく咳き込む。
今離れたら二度と会えなくなるような不安。
だけど、今ここで我儘が通らないのだと、架南は知った。
門の外へと遠のく背中。
一度も振り返らずに、父は去っていく。
「…さぁ、姫様」
いつまでも閉じられた門を見つめる架南の背中に柊がそっと触れる。
「お母上の元へ行きましょう」
少し震えている声。
(柊も泣いたんだ…)
涙をぬぐいながらそう思った。
門から屋敷まで木々に囲まれた細い道を歩く。
その長く細い道が不安をあおり、泣きながら歩いた。
「姫様、もうすぐですよ」
柊が指し示す先に屋敷が見えて、架南はたまらなく怖くなる。
優しい父の顔が浮かび、柊の手を振りほどいていた。
木々の間、雑木林へと逃げ込む。
走っても走っても木々ばかり、父と別れた門が見えてこない。
途方に暮れ座り込み泣きじゃくっていると、背後に足音が聞こえた。
「どうしたの?迷った?」
振り返ると年上の男の子がいる。
「ああ君、今日から来る子だね」
涙でぐちゃぐちゃな架南の顔を見て、笑顔を向ける。
「もう大丈夫」
男の子は架南の前までくると、膝に手をつき軽くかがんだ。
「僕は蒼麻、一緒に行こう」
屈託のない笑顔と差し出される手。
その手を掴む…
懐かしい思い。
姿を見たければ瞼の奥に…
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