第2章 覚醒と恋煩い

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会いたくて会いたくて、何度も目を閉じた。 二度と会えなかった父を思う。 扉が開く音が微かに聞こえ、葵は目を開ける。 今は現実なのだろうか… 見回しても知らない部屋、誰もいない。 ゆっくり体を起こすと眩暈がした。 何がどうしたのか、わからない。 部屋は殺風景で、ベットしかない。 (男の人の部屋?) ぼんやりとした記憶を手繰り寄せて、思い出した。 (要くんの部屋だ!) 心配そうに見下ろす要の顔を確かに見た。 熱があって倒れたと言われたような… 手を握ってもらい安心したのは良く覚えているけど、他はおぼろげで見ていた夢のほうが鮮明なのだ。 不思議な感覚。 葵はゆっくりベットから出る。 熱はまだあるようで、体が重い。 自分の体じゃないみたいだ。 ベットから立ち上がろうとしたら、右足首に痛みがあった。 (…そうだ、あの時捻挫して、それで) 満琉の顔が浮かび、ハッとする。 (言われたんだ…架南と蒼麻が) 吐き気がこみ上げた。 そんなわけがない、認めたくない、知りたくない、戻りたくない。 (兄だなんて思ったことないっ) 気持ちが一気に溢れ出す。 『無用な迷いなど、打ち消してくれるわ』 突きつけられる扇子… 招いてしまった婚礼。 (イヤだっ…) 受け入れたくない。 受け入れられない…。
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