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「でもな、俺や満琉の気持ちも察してだな」
「祥吾さん」
祥吾の言葉に割り込んで要は冷ややかな視線を送る。
「この部屋で煙草はやめてください」
要に言われ、祥吾は舌打ちをしながら煙草を戻した。
「そして出て行ってくださいね」
「容赦ないな、お前!」
「精神的余裕がないので祥吾さんの相手ができないんです」
「しかも何気に上から目線かよ…」
拗ねたような顔で祥吾はサンドウィッチに手を伸ばす。
「お前も架南も昔っから、お互いさえいりゃいいって感じだったもんな。他はどうでもいいって見もしない」
祥吾の言わんとしていることは良くわかる。
もっとうまくやれれば、いいのかもしれない。
だけど、あの頃は本当に彼女がいれば他に何もいらなかった。
「俺はともかく、満琉の気持ちだけは汲んでやれよ」
満琉の前世、天音(あまね)は物静かで控え目な少女だった。
気持ちをぶつけることもなければ、声をかけてくることすらない。
許婚と言う立場も、義務と受け止め、他意があるようには見えなかったのだ。
満琉に会うまで、何もわからずにいた。
全く見ようとしていなかったから…
「…今は大事な姉です。ないがしろにするつもりはありませんよ」
洗面器に浸したタオルを絞り、寝室に戻ろうとした時だった。
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