第2章 覚醒と恋煩い

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寝室で物音がした。 鈍い何かがぶつかるような… 思い当たって寝室へ飛び込むと、床に座り込む葵がいた。 うつむいてフローリングに両手をついている。 「葵さん?!」 膝をついてしゃがみ、背中に触れる。 肩で大きく息をし、床についた両手が震えていた。 「大丈夫ですよ、落ち着いて…」 背中をさすると冷や汗で濡れている。 ベットに戻そうと肩に手を回すと、葵がゆっくり顔を上げた。 血の気のない白い顔。 「葵さん、ベットに…」 目が合い声をかけた時だった。 葵の腕が首筋に回される。 「蒼麻!」 震えた声が名を呼び、しがみついてくる。 意識の混濁。 前世の記憶と現世の記憶が入り混じり、混乱している。 「婚礼なんて嫌っ…お願い、一緒に逃げて」 以前にも聞いたことのある叫びに、要は胸を押しつぶされる。 葵の背中に手を回し、抱きしめた。 「兄と妹になんて…望んでなった訳じゃないのにっ」 すすり泣いて呟かれる痛切な思いがすぐ耳元で聞こえる。 悲しみを抱えたまま架南は逝ってしまった。 何もしてやることができなかった。 要は抱きしめる腕に力を込める。 その要の背中を見つめていた祥吾は、何も言わず部屋を出た。
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