序章 出会い

7/10
前へ
/298ページ
次へ
左腰と左腕の軽い打撲で全治1週間で、仕事は2日休んだ。 電車の運行を妨げた罰則はないが、突き落とされたと言う目撃者の証言が出て、警察に事情聴取をされた。 非現実的なことを体験したのに どこか他人事のように思える。 (張り込みってこんな感じかな…) 携帯の画面を眺めるフリをしながら、ちらっと目を上げる。 斜め前方に見えるのは、喫茶「陽だまり」… 驚くくらいに人の出入りがないその店に 少年がくるのを待ち構えているのだ。 どうしても会いたい。 助けて貰ったお礼をしたい…のは、勿論だけど、とりあえず会わなきゃいけないと思ってしまった。 知らない誰かと、なぜ重なるのか。 胸がざわついて仕方ない。 あの少年はなぜ助けてくれたのだろう。 どう見ても高校生、この辺りでは有名な進学校の制服だ。 そんな知り合いはいないし、あの雨の日に会ったのが初めてのはず。 救護される時、傍らに落ちている眼鏡に気づいた。 その眼鏡は度が入ってなかった。 ファッションで伊達眼鏡をかけるようには見えない。 気になり出すと色々と気になる。 会いたい、と思ってしまう。 少年との接点はあの店、「陽だまり」にしかない。 ボサボサ頭のスウェット男には会いたくないし、仕方なく張り込みまがいに佇んでいるのだけど… 「ねぇねぇ、お嬢さん」 真横から声をかけられた。 これで2回目、昨日も何かを勘違いした男に声をかけられている。 「ごめんなさい、今忙しいので」 顔を向けずに淡々と告げる。 「何してんの?誰か待ち?ストーカーとか?とりあえずさ、君いくつ??」 聞き覚えのあるセリフに苛立ちを覚え、声の主を睨みつけて、ギョッとした。 ボサボサ頭のスウェット男がニコニコして立っている。 「ああ、やっぱ君だ。また会いたかったんだよね~」 軽薄さを隠そうともせず男が続ける。 「待ち合わせじゃあないよね?昨日もいたしね。ストーカーやめてさ、店においでよ。うまいコーヒー奢るからさ」 ヘラヘラした顔が癪に触る。 そんな誘いに乗ってなるものか、と構えた時だった。 「まぁまぁ、とにかくおいで」 男が手を伸ばしてきた。 かわそうとしたら、腰に痛みが走ってふらついた。 男の手から逃げ切れない、そう思った時に伸ばした男の手を華奢な手が掴み、背後から肩を支える手があった。
/298ページ

最初のコメントを投稿しよう!

220人が本棚に入れています
本棚に追加