序章 出会い

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「ひでぇよな…」 カウンターでうなだれた男が呟く。 「当然ですよ」 少年がぴしゃりと言い放ち、男の隣に座った。 生まれて初めて男性に平手打ちを食らわしてしまった。 嫌悪感は勿論だけど、後ろから抱きすくめられるなんて、そんな光景を少年に見られたくないと思った。 安易にそんなことをする男に腹が立った。 (やりすぎたかな…) だけど、思いのほか男が平手打ちにショックを受けている姿を見たら、ちょっと反省… 「あなたも座ったら?」 クスクスと笑いながらカウンターの中から女性が言う。 「その席に座るなんて珍しいわね、要」 手早く少年の前にグラスを置き 女性はとても嬉しそうに微笑んでいる。 (かなめ、って言うんだ) 思っていた名前と違うな、と感じた。 女性は要と言う少年と近しい人で、祥吾と言う男はそれなりに少年と親しいらしいことがわかる。 特に女性が少年に向ける表情は、とても親密で大切な相手に向けるものに見える。 どこに座ろうかと迷った挙句 少年から席を一つ空けて座る。 「あなたはコーヒーでいいかしら?」 「はい…」 女性に問われ、答えながら表情を伺う。 明らかな営業スマイルの中に、微妙な冷たさがある。 「そうそう、君さ」 男が少年越しに顔を出す。 「前世、信じてないって言ってたよね?」 即答できなかった。 あの時のように、言い切れない。 少年を見やると目が合った。 見てる…答えを待ってる。 前世があるとしたら、この気持ちの説明がつくのだろうか? 10才も年下の少年に会いたいと、会って何かを確かめたいと思う、この気持ち。
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