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この薄暗い蔵の中で私は、ヒトリ。
私は、標本の蝶だとお母様は言った。
食事は、お母様が運んでくれる。
お父様は、私のことを愛してくれる。
それだけで、私には十分。
私は、外に出てはいけない。私の背中にある蝶の火傷は人を不幸にしてしまう。
だから、私はこの蔵の中で生きていかないといけない。
私は、ヒトリ…
それでよかったのに…。
どうして、
貴方ハ、私ヲ見ツケタノ?
蔵の中唯一の明かりとりは、少し高い所にある小さな格子窓だけ。
蔵の中の箱を台にして、格子から外を覗くと少しの風と歩く人の足が見えた。
私にとって唯一の楽しみ。
誰にも気づかれない私は、外の人達の声に耳を傾ける。他愛のない会話すら私には、心地いいものだった。
誰にも気づかれないなら、お父様も許してくれるはず…どこにもいかないから…。
そんな思いのまま、外を眺める。
たまに聴こえる歌を真似して口ずさむ。
誰にも聞こえない私の声は、蔵の中でのみ響きわたっていた。
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