1人が本棚に入れています
本棚に追加
顔も知らないあなたの語らい。
何もない私に、そっとさした光のようにあなたの声が響いていく。
「僕の名前は、清一と言います…名前を聞いてもいいですか?」
優しい口調に、柔らかな声。
「朧と言います。」
「綺麗な名前ですね。僕の話って言ってもそんなに面白いことは、ないですけど…。」
「あ、あの…ご迷惑でなければ、外のことを教えてください。」
「…はい。今は、目の前の紅葉も赤く染まり始めたぐらいで少し肌寒いかな。」
ゆっくりと語ってくれる清一さんの声がまるで物語のように響く。
「どうして…こちらに?」
「父上に呼ばれて…まだ、約束の時間まで時間があったので少し散策をしていたら君の声が聞こえて。まさかそんな所に人がいるなんて思わなくて。」
「お父様にお会いになるのに、そんな所に腰を下ろしてしまっては、お着物が汚れてしまいます。」
「アハハッ、大丈夫ですよ…そんな心配しなくても。舞さんは、優しいですね。」
そんな時、遠くから清一さんを呼ぶ声が聞こえた。
「母上だ…。ごめんなさい、行かないと。」
「あ、あの、また……ご迷惑じゃなければ、此処に来ていただけますか?」
「もちろん。」
格子を掴んだままの彼の手にそっと触れてしまった。お父様とお母様以外の温かさ。
最初のコメントを投稿しよう!