娘が嫁いだ日

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娘が嫁いだ日

「映り込んでしまうんですよ。映るはずのないモノが」  よくある怪談話のひとつだと思っていた。  自分の身に、あんなことが起きるまでは……。  紗和子が念願のマイホームを手に入れたのは、ちょうど三十路を迎えた秋。玄関先に植えられた金木犀が香る季節だった。夫と5歳になる一人娘との3人で暮らす、憧れの一軒家。最寄り駅まではそこそこ距離があり、バスか車を利用しなくてはならなかったが、幼稚園や小学校、手ごろなスーパーも徒歩圏にあったので、夜遅くまで騒がしい駅近くの繁華街よりは、新興住宅地であるこの場所の方が、子育てにも安心だと購入を決めた。  何もかもがまっさらな、新築の自宅での新生活に、紗和子の胸は躍っていた。  春を迎え、娘の有紗の小学校入学の時期となった。自宅から学校までは、子どもの足で約15分。学校へは近所の子どもたちと一緒に登校班で通うのだが、安全確認も兼ねて、紗和子は入学前に娘と通学路を歩いてみることにした。  ほとんどの道のりはガードレールのある歩道で、幹線道路を横断する際には歩道橋が利用でき、おおむね安心できたのだが、一か所だけ気になる場所があった。     
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