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彼はいつもの笑顔で、私をみていた。
首を少しかしげて、手にはグラスを持ち、そのまま隣へスッと座る。近いけれど私には触れていない、そんな距離。
「ユリちゃん、壁の花かい?」
長い脚を組んで、ソファの背に寄りかかりながら言った。
「ん?」
その醸し出す大人の雰囲気にぼうっとしてしまう。
場馴れしていて余裕がある係長の自然なスマートさが、私とはやはり対照的だった。
「こういう場所は慣れていないんです。でも楽しんでますよ?」
「そう?なら良いけど。
外商の奴等にナンパされないようにね。」
「ふふ・・・はい。」
白井係長は微笑んで、いつかのように私の頭にポンと手をおく。
そしてゆっくり立ち上がり、去り際思い出したように言った。
「ユリちゃん、その紺のワンピース、君らしくて良いね。」
「え・・・・・?」
「とても似合ってるよ。」
「ありがとう・・・ございます。」
歩いていくその背中を見て、胸がざわめく。
私が知らない世界。
やがて、私もそこに入っていくのだろうか。
怖いようで、不安だらけで、でもとても素敵な世界かもしれない。
そして私はこの日、あの人と出逢う・・・。
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