第一章 猫に飼われるお嬢様、またの名を黄泉探偵ひらり

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第一章 猫に飼われるお嬢様、またの名を黄泉探偵ひらり

 四方津洋莉(よもつひらり)は人間でしょうか?  答えはイェス。ダー。ウィ。ネー。ヤー。シー。はい。  四方津洋莉はヒト科ヒト属ホモ・サピエンス・サピエンスの人間である。  しかし彼女の周りには、その事実を認めない奴が一人いる。 ――お嬢様。本日も麗しく爽やかな瞳でお目覚めでございますね。朝のお水をどうぞ  あたたかくてふかふかした寝具の中で、四方津洋莉(よもつひらり)は寝返りをうった。  モーツァルトの交響曲四十番ト短調 第一楽章が耳を弄する音量で響き渡っていた。  窓から射す朝の光に抵抗して洋莉(ひらり)はまどろみつづけた。 ――御髪を整えさせていただきます。……可愛らしいくしゃみをなさいましたね。少々お部屋が冷えますでしょうか?  愛情をくるんだ清涼キャンディみたいな声が聞こえる。  冷ややかだが美しく優しい、低音の。  朝の目覚めを導く、執事の声だ。  洋莉はもういちど気怠く寝返りを打って、薄目をあけた。 「モーツァルトは嫌いよ。シューベルトにして」  とたんに、 「却下。モーツァルトはお嬢様のリクエストですので」  ワサビをくるんだ生八つ橋みたいな声が返ってくる。(そんな生八つ橋があるかどうかは知らない)     
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