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……お嬢様の、ね。
洋莉は寝ぼけたまなこのまま、やりきれず溜息を洩らす。
眉毛の上まで布団を持ちあげる。大音響のモーツァルトを追いやるふりで二度寝に突入することにした。
ニャー。
枕元で猫が鳴く。
意気揚々とモーツァルトの交響曲が流れつづける。
執事は無言をつらぬいた。
「何よ」
四方八方から押しよせるプレッシャーに洋莉(ひらり)はとうとう、がばりと体を起こす。
「季節は晩秋。いちだんと冷えこみの厳しくなった朝。お嬢様が寒がっておられるのがわからないか? 君はさっさと自分の仕事をしたまえ」
樫材のフローリングに革靴の硬い足音を響かせてベッドの右側から左側へまわりこんだ執事が、パジャマの洋莉の腕の中に当然のごとくペルシャ猫のジョセフィーヌを渡した。
「ニャー」
「いや、あのね。そもそも私とジョセフィーヌがぬくぬくぬっくぬくと気持ちよく熟睡していたところへ無粋にも割って入ってきたのはあなたでしょう。そうよね、ジョセフィーヌ?」
「ニャー」
「お嬢様が、本日は日直当番のため早めに家を出なければ、と仰っている。無駄口を叩いている場合ではない。専用毛布は速やかにお嬢様を食堂へお連れするように」
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