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帰りゃんせ
「ねえねえ、“帰りゃんしぇ”の歌知ってる?」
「知ってる知ってる。今来たこの道帰らんしぇ~、帰らんしぇ~でしょ」
「そうそう。おうちがだんだん遠くなる~、遠くなる~、だよね。あれって、どこか寂しいよね」
「うんうん。それでね、あの童謡には本当は四番の歌詞があるんだって」
「ええ! 知りたい知りたい!」
「本当に知ってもいいの?」
「どういう意味?」
「だって、噂によると、四番目の歌詞を知った子は、行方不明になるらしいよ」
「やだ、それ怖い」
「うん。怖い話なんだ。だって、この団地、数年ごとに本当に子供が行方不明になってるんだってさ」
「どうして、それで問題にならないの?」
「近くに川が流れてるでしょ。あの川は昔から子供が落ちても海まで流されて遺体があがらないことが多いみたいだよ。でもね。それって本当は落ちてなくて、神隠しじゃないかって……」
「いってきまーす!」
団地の階段で立ち話してる中学生のお姉ちゃんたちの間、ぼくはわざとぶつかりながらすり抜けた。舌打ちされても気にしない。だって邪魔なんだから、あっちが悪い。
「健司! 走っちゃダメでしょ」
お母さんが玄関口まで出てきて、ぼくの背中に声をかける。
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