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その歌声は狭い路地の四方八方に広がり、頭の中にまでわんわんと鳴り響いた。
「歌うなあああ!!」
背をまるめた顔をふとあげると、もっと先の路地から路地へとハスが足を高くあげながら横切っていく。そうかと思うと、また直ぐ近くの一軒先から顔を覗かせる。
「お空に、ゆうべの星が出る~、星が出る~、
今来たこの道、帰りゃんせ~、帰りゃんせ~」
またすぐ後ろからハスの歌う声がした。そして、まるで耳を噛みちぎるくらいの近さで囁かれる。
「ねえ、この歌の続きを知ってる? 俺は知ってるよ」
「うわああああっっっ!!」
ぼくはたまらずに走りだす。ちぎれるほどに足を動かしながら、気付くと団地の立ち並ぶ土手の上まで来ていた。
「ここ……知ってる団地じゃない」
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