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「だって、あれはへその緒が入ってるんだよね。へその緒は、子供がどうしても治らない病気になったときに飲ませると効く万病の薬だって聞いた。だから、お母さんはぼくのことを思って、大事に大事に持ってるんだよ」
「違うよ。あの中には俺が入ってるんだ。俺はね、母親の胎内で死んだ子なんだ。死んだ子は腹で石みたいになることがあるんだよ。石児って言うんだってさ。それを取り出して、お母さんは大事に大事にしてるんだ」
違う、と喉元まで声が出かかっていた。でも、ぼくは桐の箱の中身を、こっそり見たことがある。きっと宝物のようなものだと思ったそこにあったのはカブトムシの幼虫が石になったみたいなものだった。気持ち悪くて、すぐに仕舞ったから、よく見ていない。思い返せば、あれは石になった嬰児だったのかもしれない。
「お母さんは、本当は俺の方に生きててほしかったんだよ。だって、俺はお母さんが本当に愛した男の子供だからね。だから名前にも、その人の名前をつけたんだよ」
そしてまたハスは歌いだすのだ。
「おうちがだんだん遠くなる~、遠くなる~。
今きたこの道、帰りゃんせ~、帰りゃんせ~」
違う。この歌は帰る歌じゃないんだ。代えるって言ってる!
「あの町、この町、日が暮れる~、日が暮れる~。
今きたこの道、かえりゃんせ~、かえりゃんせ~」
全身が総毛立つ。
「健司、この歌の四番の歌詞を知った子が、どうなると思う?」
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