帰りゃんせ

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「走ってないよ。飛んでる」 「憎まれ口ばっかりね。結局宿題してないでしょ! もう四年生なのに! 帰ったらお仕置きだからね!」 「聞こえなーい」  そんなふりをして、ぼくはお母さんの声をぶっちぎったまま階段を三段抜かしで一気に駆け下りた。  そして、学校にいる間は、ずっとお仕置きのことも忘れて、いざ帰るときになってから、ハッと思い出す。しかも返ってきたテストは、どう見てもまずい。 「なんで、テストを見せたかどうか判子をもらってこなくちゃいけないんだよ」  団地の近くの土手を石蹴りしながら歩くと、ぼくはいつの間にかうちのあるDの三号棟を通りすぎていた。ランドセルの中には三十点のテスト、おととい提出期限が切れた親子参観の案内、どれもこれもがぺらぺらのくせに、やけに重たい。もうひとつ、なんか役所からの問い合わせみたいだけど、それもずっと教科書で底に押し込んでくちゃくちゃのままだ。 「ねえ、おうちに帰らないの?」  いきなり声をかけられて、ぼくは振り返った。一瞬、西日が目を焼いて、真っ黒なシルエットにしか見えない。 「誰?」     
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