帰りゃんせ

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 まぶしさに瞬きをすると、耳まで裂けるかと思うほどのにっかり笑顔が現れた。同じくらいの歳の男の子なのに、えらくませた顔つきと見開かれたかまぼこのような目。でも、すぐに糸杉くらいに細くなる。 「俺はハス」 「ハス? 変な名前?」 「そうかな? お前の方こそ、変な名前。いっつも健司じゃん」 「変なの? 名前は誰だって、いっつも同じじゃん」 「違うけど、ま、いっか。なあ、それよりも今から遊びにいこうよ」 「けど、門限があるよ。もうすぐ五時だろ? 五時には家に着いてないといけないんだ。それを過ぎると家に入れてもらえない」 「へえ、なら、もういれてもらえないな」 「ええっ!」  そう言えば、急にガクンと日が傾いたように感じる。さっきまで確か四時過ぎくらいだったのだから、そんな馬鹿なことはないはずなのに――。でも、今は五時を告げる夕焼け小焼けのオルゴールの音が町内放送で流れてきた。 「どうしよう……。帰ったら叱られる」 「じゃあ、帰らなければいいじゃん。今から遊びに行けばいい。どうせ、怒られるなら遊んで怒られればいいと思うけどな」  ハスの言うことは、ひどく魅力的でまっとうなことのように思えた。けれど、きっとこういうのは悪魔の囁きっていうことも、どこかでわかっていた。わかっていて――。 「いいね。そうしよっか。どこで遊ぶ?」 「そうこなくちゃ。いいところを知ってるんだ。来いよ」 「ああ」     
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