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いつの間にか絞りだすような声がもれていた。
「へ~、子供らしい~」
からかうような口調で返されて、むっとする。
「じゃあ、ハスはママがしゅきなんですか~?」
同じようにからかう口調で返すと、ハスの顔が一瞬真っ白な仮面のように見えた。カッとかまぼこ目が見開く。
「俺はママがいないから、わからない」
「あ……、ごめん」
すっと糸杉の目に戻るその顔は、もういつものハスだ。
「みんなさ。これくらいの時期になると、お母さんが嫌いって言うんだよね。それがかっこいい男だとでも思ってるのかなあ。でも、結局最後はお母さん、お母さんって言うんだよ。格好悪いなあ」
どうせ、オマエもマザコンなんだろって言われたような気がして、ぼくは反発したくなる。
「どこの家のお母さんも口うるさいんだよ。すぐ何々君は、あんなに勉強ができるのにとか言うしさ。頭くるっ!」
「やっぱり、お母さんなんか大嫌い?」
「そうだよ。だから、家になんか帰らない」
「そうこなくちゃ。行こう。こっちだよ。面白いことがあるのを知ってて、あいつらは子供を縛りつけるんだ」
まだハスの言葉は魅力的で、ぼくは足を止める気はさらさらなかった。
「なあ、どこまで行くんだよお」
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