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そうだ。なんで日が落ちないんだよ。もう歩き始めて、一時間近く経った気がする。なのに川の消える先の太陽は溶けるようにオレンジの雫を地平線に垂らしながら、全然沈まないでいた。まるで夕焼け色のスノードームの中にでも閉じ込められたように思える。
「ほら、俺と一緒じゃなきゃ帰れないだろ? じゃあ、もうついてくるしかないじゃん」
「お前、最初からそのつもりだったのかよ」
からかわれたと思って、ぼくはきびすを返した。いくら帰り道がわからないからって、もと来た道の記憶を辿れば、きっと帰りつけるはずだ。
「ぼくは帰るよ」
「いいの? お母さんに叱られるよ。こんな悪いことをした子なんて、いらないって言うかもだよ。お母さんのこと大っ嫌いだったんじゃないの?」
「お腹が空いた。お母さんのことは苦手だけど、お母さんの作るオムライスは美味しいんだ。今日はオムライスを作るって言ってた」
「きっと、こんな悪いことをした子はご飯抜きだと思うけどなあ。それでも帰る? 本当に帰ることができると思ってんの?」
そんな言葉を聞きながら、不安でないわけがない。でも、今帰り始めないと、本当に取り返しがつかないことになる気がした。だから、ぼくはハスに背中を向けて歩き始めたんだ。
すると、ハスが後ろをついてきながら歌い出す。
「あの町、この町、日が暮れる~、日が暮れる~、
今来たこの道、帰りゃんせ~、帰りゃんせ~」
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