監禁

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俺は空腹で死にそうだった。完全に唾液の分泌が止まり、呼吸をすると舌がひび割れていくのがわかった。ピチョン、ピチョンと手の届かない所にある水道の音、それ自体が拷問になる。気が遠のいていく中で昔のことが走馬灯のように頭をよぎった。 俺は幼い時レストランの前で親に置き去りにされ捨てられた。寒さと泣き叫んで声が痛かったことだけは鮮明に憶えている。警察が来たが、そのレストランを営んでいる夫婦に子供がいなかったということもあり孤児の俺を引き取って育ててくれた。 反抗期で家で暴れまくり、家具を破壊し、夫婦にケガを負わせたことも何度もあった。夜中に家出して何日も帰らなかったこともある。それでも頭が良く、素直な一面もあった俺をいつもあたたかく見守り、大切に育ててくれた。俺は運がよかったのかもしれない。世界中には捨てられてそのまま死んでいく者も多くいるはずだ。このまま死んでも俺は幸せ者だったと思うことにしよう。 遠くから足音が聞こえてくる。とうとう来るときが来た。扉から男女が入ってくると男はキッチンへ行き包丁を研いだ。包丁を研ぐ音が部屋中に反射した。俺は鳥肌が止まらなくなった。俺はまだ生への執着が捨てられないのか。死を覚悟したはずなのに。 包丁を研ぐ音が止んだ。少しの静けさの後、ザシュッザシュッと何かを切り刻んでいるのが影でわかった。その音は流血を想起させるみずみずしさと疾走感を感じさせた。そしてゴリゴリと硬いものを無理やりに、無造作に切ろうとする濁音がした。 音が鳴り止んだ。するとビチャビチャーと何かがぶちまけられた。そして男は俺の方へ向かってきた。手に何かを持っている。それを俺の前に置いた。 「待てっ!!」 男は俺にそう言った。 「よしっ!!」 男は俺にそう言った。 シッポを振りながら俺は大好きな骨つきカルビが入っているドックフードにむしゃぶりついた。 「ポチ。お前はほんとにそれが好きだな」 やっぱり俺はこの夫婦が大好きだ。
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