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「あン? なんだ兄ちゃん、俺ァ何も買わねえぞ?」
ずいぶんべらんめえな、けど明るくハキハキした喋りに驚く。
よく通る声は、人とほとんど会話しない俺の声より聞きやすいかもしれない。
「押し売りじゃねェんだったら兄ちゃんも座れよ。どうせ俺ァひまだからな」
ジジイがガサガサと新聞紙を広げる。
ちょっと後悔が頭をよぎったけど、声をかけたのは俺だしと、おとなしくベンチに座った。もとい、ベンチに敷かれた新聞紙の上に座った。
見える景色は変わらない。
ただ不忍池と蓮、それに弁天堂が見えるだけだ。
おのぼりさんでもなさそうなジジイが見惚れる景色じゃない。
「新聞、朝日ですね。お好きなんですか?」
「キレェだよ。キレェだから読むんだ、好きなことだけやってたんじゃ勉強にならねェだろ?」
「立派な心がけですね」
……耳が痛い。
小汚いジジイと思ったのが申し訳ない。
話の糸口にってベンチに敷いた新聞に触れたら、予想外のダメージすぎる。
「まァ受け売りだけどな。兄ちゃんは花見か? それともアレか、昼間っからふらふらして『にーと』ってヤツか?」
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