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「それに、もともと私はお高くてよ? 私、柳橋(やなぎばし)一の芸妓ですもの」 「ンなこと言うんだったら俺ァ、自分の店を構える一国一城の(あるじ)だぞ?」 「ふふ、そうでしたね。水物の人気商売で、お店を繁盛させてる腕ききの板前さん」 「なンだそりゃ。もっと言い方ってもんがあンだろ」  それでも、目尻を下げる洋装の女性の笑顔に照れたのだろう。  男はふいっと目を逸らした。  つられ、女性も視線を動かす。 「蓮の花が綺麗ですねえ。私、桜よりも蓮の方が好きなんです」 「ぱっと咲いてぱっと散る、桜の方が見事じゃねえか」 「男の(かた)はそう言いますのね。散ってしまったら寂しいじゃないですか」  池に浮かぶ蓮の葉と咲き誇る花で水面は見えない。  そんなもんかねえ、と男は独り言ちる。 「『(しのび)、忍べず、不忍池(しのばずのいけ)』。初デートでときめくには、二人ともちょっと(とう)が立ってるかしら?」  不忍の、池を望む庭園で。  女性はふわりと微笑んだ。
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