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「もし、そうなってしまったなら、私が処分することはできません。未来永劫、とは言い過ぎですが、少なくともこの店の閉店時か、あるいは私が死ぬ時まで、保管させていただきます」
そう断言すると。
彼女は僅かに微笑みました。それまで淋しげなかんばせばかり見てきたので、それはとても輝かしい笑みに見えました。
「富……」
「よかった」
微笑みながら言います。
「慌てて取りに来なくても大丈夫ね。ずっと……あなたが大事に持っていてくれるなら」
それは、とても優しい言葉でした。
***
嫌な予感は的中しました。
知らせた納品日から四日経っても彼女は取りに来ません。
昨日お電話を入れましたが──全く初歩的なミスです、携帯電話の電話番号が一桁足りませんでした。
きっと住所も違うのだろうと予測しますが、手紙は出してみようと思います。
胸騒ぎがします、死なないとは言っていましたが、本当でしょうか。
どうにかしてご連絡を──同窓会の幹事を思い出しました、彼ならきっと連絡先を知っているでしょう。
お知らせの葉書にあった電話番号に発信しました。
『うぃー、長谷くんだよーん』
番号から私と判ったのでしょう、明るい声がしました。
「藤宮です、先日は幹事、ありがとうございました」
『いえいえー。幹事は持ち回りだからな。いつかお前にもやってもらうぞ』
「判りました。ところで、富澤さんのご連絡先を知りたいのですが、ご存知ですか?」
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