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『ご存知ですけどぉ。個人情報につき、本人のご承諾がないと』
「ではご本人に伝言をお願いしてもいいですか?」
『ええー、冗談だよ、どうせいずれは幹事やってもらうんだし。って、なんかあったの?』
「ええ。うちに服を仕立てに来てくださったのですが、取りにいらっしゃらなくて」
『へえ。そりゃ無理だろ。あいつ、今頃アメリカだよ』
「──はい?」
『何週間前かな、富澤の仲良しグループのメンバーがシアトルまで挙式に行ったとか。そもそも何年振りかで同窓会しようってなったのも、富澤が結婚してアメリカ行くからってのが理由なんだよな。なんでもあいつ自身外資で働いてて、そこの上司に見初められたんだと。んで相手が本国に帰ることになったから、一緒に来ないかってなったらしくて。ああ、お前、ちょろっと来て帰ったから知らないんだな? やっぱお前次回の幹事やれよ。そしたら自分の都合に合わせていいから。今回日曜の昼間になったのも、うちの嫁さんが夜に会ったら二次会なんぞで酔っ払って帰ってくるんだろ、ふざけんなって、そりゃあおっかない顔で言うもんでさ。なんせまだ生後半年の我が子がいるもんでよ。可愛いぞー、我が子はー、最近なんかハイハイはじめてそりゃまあ、目に入れても痛くないとはこのことで。で? 藤宮はまだ相手は』
「ありがとうございました、助かりました」
私は一方的に電話を切りました。
結婚──そんな幸せに満ち溢れていたはずの人が、何故あんなにも哀しい顔をしていたのでしょう。
死んでしまうと私が心配してしまうほどの落ち込みようでしたが──。
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