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「やっだあ、藤宮くん! ますますかっこいいわね! って言うかさ、坂上くんが変わり過ぎよね! 学年じゃ、一、二を争うイケメンだったのに、頭がすっかり淋しくなっちゃってさ! まだ三十代であれじゃ、この先残念過ぎるわよ!」
「──はあ」
その。頭髪については否定はできませんが、肯定もできかねます。
「藤宮くんは、今何してるの!?」
こちらのグループの何人かは、なかなか元気のある方が多かったと思い出しました。
「横浜の小さな商店街で、仕立屋を」
「仕立屋?」
「スーツを作ったり、あるいは持ち込んでいただいた服のリメイクも」
「へえええ。羽振り良さそう!」
「いえ、そんな事は。でも今日も営業日ですので、もう帰らせて頂こうと」
「そうなの!? 始まったばっかだよ!?」
「でも、待っているお客様もいらっしゃるかと思うと」
「もお、真面目ね!」
数人の女性に代わるがわる言われ、返答に困っていると。
お酒のグラスを片手に、物静かに立っている女性と目が合いました。
富澤夏都、と言うお名前だったのを思い出します。
このグループのメンバーといつも行動を共にしていましたが、なかでもとびきり大人しいタイプの女性でした。それでもメンバーとは気が合うようでクラスが違っても一緒にいたように思います。
「富澤さん、お久しぶりです」
目が合ったので、改めてご挨拶しました。
冨澤さんはぺこりと頭を下げただけでした。
私も頭を下げて、その場を辞しました。
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