【戻らない依頼主】

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あるいはわざとはぐらかしたのか……まずは、お仕事をしようと思いました。少し、落ち着いてからきちんとお話を伺いましょう。 元のデザインは画集から選び、それに少し手を加えました。 襟を大きくして、スカートの丈はミモレ丈にし、膝のあたりで少しすぼめて僅かにマーメイドラインにしました。 採寸に入ります。 やはり彼女は何かを語ろうとはしません、自ら言葉を発することは無く、私が話しかければ答えが返ってくる程度です。 先日の同窓会の様子なども聞くのですが、多くは話してはくれませんでした。 こんなにも、無口な方だったでしょうか。 裄丈を測るのに首に触れると僅かに息を止めたのが判りました。くすぐったかったのでしょう。 肩口を沿わせて手首まで指を這わせますと、微かに体が震えました。メジャーの上からでしたが、嫌な感じがするのかもしれません。 相手は女性です、しかもブランクがあるとは言え長いお付き合いの……少々配慮が足りませんでした。 「あの。スリーサイズは口頭でも」 「ううん……測っていいよ。きちんとしたもの作ってほしい」 安くはないお買い物です、その通りです。 「承知しました、失礼いたします」 背後から脇の下を通して手を入れさせていただきました、胸のトップの位置に合わせてバストサイズを測ります。     
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