【戻らない依頼主】

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もちろん触れたりはしません。 そのままウエストも測り、更に富澤さんの右脇に膝を着き、ヒップのサイズも測りました。 「失礼しました、ありがとうございます」 言って膝をついたまま顔を上げると、富澤さんと目が合いました。 どうやら私を見ていたようです──富澤さんは一瞬顔を引きつらせて、さっと視線を上げましたが僅かに頬が赤いように見えました。 やはり女性が測られるのは恥ずかしい場所なのでしょう。 他にもスカートの丈の確認など、いくつか測って終わりました。 微かに指が触れた瞬間がありましたが、裄を測った時よりも温かさが増していたような気がしました。 生地を選んでいただく時は、奥のソファーにご案内しました。 コーヒーをお出しして、ゆっくり選んでいただきます。 「素敵なスーツをお作りになるんですね」 向かいのソファーに座ってお声を掛けると、富澤さんは上目遣いで私を見ました、でもすぐにまた生地見本を見始めます。 「……ひとつくらい、上等なものがあってもと思って」 一張羅、と言うやつですね。 「その為に私の店を選んでくださったのは嬉しいです。ありがとうございます」 礼を述べると、富澤さんはまた私を上目遣いで見て、すぐに視線を落とします。     
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