【戻らない依頼主】

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「仮縫いの段階で一度ご試着いただきたいのですが、3週間くらい後のあたりで、ご都合が良い日はありますか?」 「……再来週じゃ、駄目?」 2週間後です。 「いいえ、構いませんけど。お急ぎですか?」 「ううん、受け取りはいつでもいいんだけど……その翌週は、ちょっと……」 「もちろん、ご予定に合わせます、では再来週に」 富澤さんのスーツを集中して作業いたしましょう。 日時を確認して、伝票をお渡ししました。 * 約束の日にご来店くださいました。 仮縫いのスーツを着ていただき、様子を見ます。 「いかがです?」 「──すごい、体にぴったり馴染む。何年も着てきた服みたい」 「きちんと体に合わせて作るとそうなるんですよ」 既製品では味わえないフィット感はあると思います。全てがオーダーメイドですから。 肩の落ち具合も、ウエストラインのふくらみも、心地よいように合わせています。 「袖はもう少しあってもよさそうですね。スカート丈はよろしいですか?」 「うん、これでいい」 「承知しました」 笑顔で応えながら、そっと襟ぐりをなぞっていました、体に沿っているか確認していたのですが──彼女がぴくりと体を震わせ背筋を伸ばし、息を呑んだのが判りました。 女性にする仕草ではありませんでした、反省しすぐに手を下ろします。     
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