11人が本棚に入れています
本棚に追加
「仮縫いの段階で一度ご試着いただきたいのですが、3週間くらい後のあたりで、ご都合が良い日はありますか?」
「……再来週じゃ、駄目?」
2週間後です。
「いいえ、構いませんけど。お急ぎですか?」
「ううん、受け取りはいつでもいいんだけど……その翌週は、ちょっと……」
「もちろん、ご予定に合わせます、では再来週に」
富澤さんのスーツを集中して作業いたしましょう。
日時を確認して、伝票をお渡ししました。
*
約束の日にご来店くださいました。
仮縫いのスーツを着ていただき、様子を見ます。
「いかがです?」
「──すごい、体にぴったり馴染む。何年も着てきた服みたい」
「きちんと体に合わせて作るとそうなるんですよ」
既製品では味わえないフィット感はあると思います。全てがオーダーメイドですから。
肩の落ち具合も、ウエストラインのふくらみも、心地よいように合わせています。
「袖はもう少しあってもよさそうですね。スカート丈はよろしいですか?」
「うん、これでいい」
「承知しました」
笑顔で応えながら、そっと襟ぐりをなぞっていました、体に沿っているか確認していたのですが──彼女がぴくりと体を震わせ背筋を伸ばし、息を呑んだのが判りました。
女性にする仕草ではありませんでした、反省しすぐに手を下ろします。
最初のコメントを投稿しよう!