ぜんぶ釘のせいだ_二稿

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 哲学要素に踏み込みそうになったので、永治は気持ちを切り替えた。もっとシンプルに考えれば良い。さきほどまで聞こえていた『釘の声』が聞こえなくなった、ということは答えはひとつだ。 「俺は、あの妙な力から、開放されたんだ!」  すなわち釘の声が聞こえるという怪現象から! 『こっち~!』 「いるのかよ!」  和釘は洗濯機の中から発見された。声が聞こえなかったのは、ちょうど『すすぎ』の時間に突入して機械音でかき消されてしまったからだ。  そして今、永治は智世の前でパンツ1枚で正座させられている。 「えいじ君、お姉ちゃんは悲しいですよ。ポケットの中はちゃんと出しなさいって、えいじ君が一番厳しかったのに!」  永治の膝先には濡れた和釘が置かれている。こいつが声の主だ。  ややひしゃげているところから、自転車に轢かれた例の釘であることが分かる。どうして家に持って帰ってきたのか、永治にはとんと記憶にない。 『2度も助けてもらえるなんて! 大感謝!』 「しかも釘なんて! 洗濯機が壊れたらどうするの! 困るのは私じゃなくってえいじ君だよ?」  ごもっともです、とボソボソ呟くしかない。 「だいたいなんで持って帰ってきちゃったの。納品するんじゃないの?」  繰り返すが、永治は覚えていない。ノイローゼもここまできてしまったか、それとも釘が自ら移動する手段を得たか。 「……お前、なんで来たんだ」 「なんでって」     
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