ぜんぶ釘のせいだ_二稿

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 釘職人だった頃は決して飾ることのなかった指先。これがある限り、姉は職人として復帰しないだろう。なんの益にもならない爪先が永治にとっては忌々しい。 「……姉さん、いつこっちの仕事に戻るんだ」 「今後どうするかは、まだ保留中」 「いつまでニートのつもりだ?」 「ニートって……家事代行してるのに……」 「俺からは頼んでいない。家事がしたいなら旦那の所に帰れ」 「もう別れました。私の今の家族はえいじ君だし」 「なんで、離婚したんだ」 「……それさ、えいじ君に言う必要ある?」  徐々に不穏に傾いていた空気が、永治のダメ押しで一変した。 『怒った顔もかわいい』  釘が妙な茶々を入れてくる。 「黙れ」 「え、聞いてきたのえいじ君なのに」 『違うんです! 今のは僕に言ったことで!』 「釘のくせに俺をかばうな!」 「えいじ君?」  怒ればいいのか不安に思えばいいのか、さすがの智世も困惑している。彼女の大きな目に永治はどう写っているのか。いたたまれなくて互いに目をそらす。 『えいじ君、その、元気だして』 「お前がえいじ君って言うな」 「……じゃあなんて呼べばいいの」  釘の声が聞こえるせいで、空気は悪化の一途をたどる。 「『釘職人さん』とかがいいの?」 「釘なんて!」  ノイローゼだ。これはノイローゼだ。永治は自分に言い聞かせる。自分は疲弊していると。     
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