ぜんぶ釘のせいだ_二稿

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 疲弊はどんどん次のトラブルを呼ぶ。どうにもならない最悪のサイクルが形成される。 「釘なんて、消えちまえばいいんだ」 『そんな……!』 「そんな言い方ないでしょう、仮にもうちの商売道具に」  姉の説教に、苛立ちは頂点に達した。 「うちなんて言うな。家から出ていったくせに、宗方家ヅラをするな!」 「……。」  シン、と静まり返ったリビング。智世は黙って部屋を出る。そのまま玄関扉が開く音。足音。それだけ。 『あの人のお名前、知りたいな』  空気を読まない発言が釘から飛び出した。いや、この声もノイローゼの発露だろう。「釘の声が聞こえる力」なんてあるもんかと、自暴自棄になった永治はフローリングに座りなおす。 「名前は、宗方智世だ」  姉は宗方家の人間に戻った、と声に出すことで整理がついた。  *  これまでずっと下着1枚だった永治。ようやくスウェットを着用すると、肉じゃがを温めなおして夕食をとる。  姉は不在、テレビをつける習慣もない。久しぶりに静かな夕食の時間がくると思えば、そうは和釘が許さない。 『なにのんきにご飯たべてるの~!』  床に置きっぱなしは踏みかねないので、今は卓上に乗せている釘。 『チセさんどっかに行っちゃったのに』 「別に。姉さんもいい大人だ。どこに行ったって構わない」     
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