ぜんぶ釘のせいだ_二稿

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 姉のつくった肉じゃがは、母がつくるそれと同じだった。 「そもそもここは俺の家だ。宗方家はもう無い」 『でもでも』  この声が自分の内よりいづるもの(ノイローゼ)なら、己は姉を心配していることになるのだろうか? 「そんなに心配か」 『うん、あんなにカワイイ人、絶対みんな声かけたくなるよ! 僕だってこの声が届くのなら想いを伝えたい! チセさんの家のパーツになりたい! 一生一緒にいたい!』  衝撃的な告白によって判明したことがいくつかある。  その1、和釘どもは宗方永治以外に声が伝わらないことを自覚している。  その2、釘にも恋愛感情がある。  その3、そうじゃなければ、この声は己のものなのだとしたら、智世のことを? 「……俺は『釘の声が聞こえる選ばれし人間』だったようだ」  永治はついに「釘の声が聞こえるのは自分の能力が目覚めたから説」を採用した。 『あの人はね、まるで、釘の女神様みたいなんだ』 「まったくわからん」  智世が和釘を作っていた頃を思い出す。その姿を女神と称するべきかは分からないが。  火の前で金槌を振るう様、熱に照らされる身、頬を流れ落ちる汗。  鉄を打つ音、カタチができるにつれほころぶ横顔。そのくせギラギラと目を輝かせて。       
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